マンション評価の考え方(マンションは終の棲家になり得るか?)
不動産鑑定士として分譲マンションを評価する場合、そもそも論として問題に感じるのが「専有面積割合による所有権の共有」の“共有”の部分です。
マンションの区分所有権を評価対象とする場合、不動産鑑定でも「共有減価」は行いません。
ただ、これがマンションではなく、土地や戸建てであったら、間違いなく「共有減価」として数十%の減価を行います。
マーケットは、必ずしも正確な所有の実態を反映せず、人気等に引きずられるので、売りに出ている物件の価格に文句をつける気持ちはないですが、「不動産とは何か」から考える不動産鑑定士としては、この土地や戸建てにない「マンションならではの問題」があることを、エンドユーザー(一般消費者)も念頭に置くべきだと考えています。
区分所有権
区分所有権は、マンションやビルの中にある独立した一室(住居や事務所等)の所有権のことです。建物の一部を切り取っての売買を円滑にするために、「建物の区分所有等に関する法律」によって特別に規定された所有権です。
この法律に詳しく触れるとすごく長くなるので、この項で書きたいポイントだけを抽出しますが、“共有”物の売却の際に必要となる面倒を簡略化し、建物全体の管理等について規定を明確にしたものです。
※説明を簡略しています。民法でも共有持分の売却は可能です。正確には、上述の法律を読んでいただくか、お問い合わせください。
何が言いたいのかというと、自分が保有している部屋の売買は楽になったが、
【1】建物の修繕等の変更・管理行為には、他の共有者の賛同が必要(必要数は行為の重大さにより変わる)。
【2】建替えには、建物所有者及び議決権の各5分の4以上の多数による決議が必要。
【3】建物全体及びその敷地の処分(売却等)には、共有者全員の同意が必要。
のように、個別の部屋の売買以外の行為においては、“共有”の要素が残っているのです。
マンションの所有は、区分所有法により、売買が簡単になったために、他の土地や戸建て等と同様に考える方が多いですが、「マンションを購入して住む建物は、所有者みんなの共有物」という点は忘れてはいけないと思います。
マンションは終の棲家になり得るか?
所有権として購入していても、ペットを飼えるかどうかは管理組合の規約によるし、共用部分に係る工事は勝手にできない。建て替えるなんて、全居住者の5分の4以上の賛成を集めないといけない。等々、ままならないことがあります。
となると、マンションは資産か?という疑問が湧きます。別の言い方をすると、資産として保有するためにはどのような形態がいいのか、ということです。よく言われていることですが、全国に十数万棟あると言われる分譲マンションのうち、建替えを成功させたのは300棟ほどだそうです。ということは、資産価値がゼロどころか、建て替えられなければマイナス評価となるようなマンションも出てくるでしょう。
「終の棲家」として購入したマンションが、数十年後の老後、建替えの議論ですったもんだしていてどうなるか分からない、なんてことの想定はレアケースではありません。おそらく、よほどの政策的な支援がない限り、築年数が古くなったマンションは、建替え決議を巡って紛糾し、資産力のある人から逃げ出しちゃうということが、多くのマンションで起こっているでしょう。
マンションを「終の棲家」とする考え方には同意しかねます。勿論個人の自由ですから、「そんなことはいいんだ、私はマンションで一生を終えるんだ!」という方を無理やり説得しようとは思っていません。一般的に考えると、「終の棲家」と考えるのはリスクが大きいのではないかと感じているだけです。
ただ、築古のマンションの中でも管理組合がしっかりとコミュニケーションを取っていて、耐震工事等も済ませたようなマンションは非常にお買い得となっています。築年の古さに引っ張られて、せっかく高い金を掛けて行った耐震補強工事の分の価値的な回復が認められないからです。耐震補強工事を済ませた築古物件はお買い得だと思います。
また、容積率に余裕のある物件なら、建替え費用を建替業者が負担してくれる(持ち出しがなくなる)可能性がありますから、その権利を買うつもりで、築古物件を買うという手もあるかもしれません。
マンションに住むということ
話がそれましたが、マンションは他の所有者と“共有”しているのだ、ということを念頭に置くべきだということです。
誤解されると困るのですが、私は住むなら「マンション派」です。特に、子供が小さいうちは、マンションしか考えられないくらいです。それは、生活する上で考慮しなくてはならない重要な要素である“利便性”“耐震性”“セキュリティ”等においては、戸建よりマンションの方が上回ることの方が多いからです。
マンションは、「便利」かつ「安心」して住める形態であると思うと同時に、上述したような権利形態であることは念頭に置くべきです。
マンションは、あくまで立地の利便性等を重視して、一時的に(数年間か十数年間か)住むために購入するべきものであり、その出口戦略(一定期間後の売却)まで考えに入れておくべきということです。